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月別アーカイブ: 2025年8月

高橋工業のよもやま話~Part20~

皆さんこんにちは!
高橋工業株式会社の更新担当の中西です

 

高橋工業のよもやま話

~多様化~

 

アルミサッシは、住宅から商業施設、工場、医療・福祉まであらゆる建築で使われます。近年は断熱・防火・防音・意匠・スマート化・サステナビリティといった要求の多層化により、製品も加工も“多様化”が加速中。本稿ではその要因と、実務で押さえるべき技術・体制・チェックリストをまとめます。


1. 多様化のドライバー(なにが変わったの?)

  • 性能要件の高度化:断熱(熱貫流率目標の引上げ)、気密・水密、耐風圧、遮音、防煙・防火などの複合性能が同時に求められる。

  • 意匠・体験の拡張:ミニマル框、大開口・超スリム、曲面や三次元R形状、木目・石目など素材感の演出

  • リノベ市場の拡大不整形開口・既存躯体の狂い対応、内窓追加、バリアフリー化など個別最適が常態化。

  • サステナブル志向:再生アルミ、低VOC塗装、解体時の再資源化設計(DfR)といった環境対応。

  • デジタル化:BIM連携、DfMA、トレーサビリティ、小ロット短納期をデータで回す運用。


2. 加工の多様化:代表的なテクノロジーと使いどころ

2-1. 形状加工

  • 長尺R曲げ/三次元曲げ:円形FIX、螺旋・S字の意匠。
    → 反発・ねじれ補正の治具設計と、試作での“狙いR”キャリブレーションが鍵。

  • CNC切削・異形切欠き:クローザー座、CP錠座ぐり、ドレイン経路、長孔調整。
    → 応力集中回避の止まり穴+ブリッジ設計が有効。

2-2. 接合・補強

  • FSW(摩擦攪拌接合)/TIG溶接:大型框や一体化意匠で歪みを抑えつつ強度確保。

  • ハイブリッド接合(接着+機械締結):耐風圧・開閉耐久のばらつきを低減。表面処理とプライマー適合の事前検証が必須。

2-3. 機能追加加工

  • サーマルブレイク:ポリアミドストラット挿入等で熱橋遮断。

  • 気水密強化:ドレイン設計、圧力平衡室、パッキン溝の追加・最適化。

  • 防火・防犯・遮音:ラミガラス用深溝や高荷重金物、遮音パッキンの採用。

2-4. 表面・意匠

  • アルマイト/粉体・フッ素塗装:環境条件(沿岸・工業地帯)に合わせた耐性選定。

  • 木目転写・ラッピング、梨地・ヘアライン:周辺材との質感整合。

2-5. 製造支援

  • 専用治具×AM(3Dプリント):吸着治具や位置決めブロックの短期内製で段取り短縮。

  • 自動化・ロボティクス:繰返し精度が重要な穴あけ・シール塗布工程で効果大。


3. プロダクトの分化:用途別の“当たり前”が違う

  • 高断熱・省エネ向け:スリム化と断熱の両立、二重排水など機能の二重化

  • 海浜・化学環境向け:重防食塗装、異種金属接触腐食の絶縁規格

  • 商業・医療施設:自動開閉・遠隔制御・無停電手動切替、衛生配慮の素材選択。

  • 集合住宅リノベ:不整形開口対応、内窓+既存活用で工期短縮と騒音抑制。


4. デジタル×サプライの多様化(小ロット・短Tへ)

  • BIM/IFC連携:意匠→構造→製造要件を早期すり合わせ。

  • Nesting最適化:歩留まり改善と端材管理。

  • トレーサビリティ:部材ID・加工条件・検査ログをQRで一元化

  • マスカスタマイゼーション:標準モジュール+可変部の“組合せ設計”。


5. サステナビリティの実装

  • 再生アルミ比率の明示LCA観点での材料選定。

  • リペア・再研磨・再塗装など延命メニューの整備。

  • **解体しやすい設計(DfR)**で再資源化率を高める。


6. 多様化時代の品質保証フロー

  1. 初期流動(試作):R補正、漏水・開閉耐久の実機テスト。

  2. FMEA:割れ・白化・塗装密着・逆流・ガタを事前洗い出し。

  3. FAI(量産前承認):合否基準の共同定義(寸法・外観距離・機能)。

  4. SPCと抜取:工程能力の安定化、外観は500〜1000mm視認を規定。

  5. 是正・再発防止:治具変更/条件表更新/設計反映まで落とし込む。


7. 現場で効く「要件整理」テンプレ(そのまま使えます)

  • 環境:外部/内部/沿岸・工業地帯、清掃頻度

  • 性能:断熱(目標値)、気水密、耐風圧、遮音、耐食、防火等

  • 意匠:框見付・見込、R有無、テクスチャ(梨地/ヘアライン/木目)

  • 開口条件:不整形・芯ズレ、補正許容、公差の基準面

  • ガラス:種類・厚み・重量、入替動線(施工性)

  • 金物:錠種・戸車・ヒンジ、耐荷重、保守性

  • 表面処理:アルマイト/粉体/フッ素、光沢・色差管理

  • デジタル:BIM連携の有無、図面フォーマット(DWG/DXF/STEP)

  • 運用:清掃・メンテ周期、補修塗装の可否

  • エコ:再生材比率、解体時の分別設計


8. ケーススタディ(多様化の実装例)

  • A:海沿い商業施設の大開口引違い
    粉体orフッ素塗装+SUSビス+絶縁ワッシャ/戸車強化/長孔で芯ズレ吸収/二重ドレインで逆風時の逆流を抑制。

  • B:美術館の曲面FIX
    長尺R曲げ+Rカバー成形/FSWで一体化/ヘアラインで映り込み制御/施工前に模型滴下試験で水路確認。

  • C:マンションリノベの内窓
    既存狂いを現調→治具化/遮音パッキン選定/内装意匠に合わせ木目ラッピング/搬入動線を考慮した分割搬入


9. 体制づくり:人・設備・手順の“多能工化”

  • スキル:CNC・三次元測定・接着管理・表面処理知識をクロストレーニング

  • 設備:可変治具・吸着治具、短納期に効く内製治具製作の仕組み化。

  • 標準化:「R補正表」「接着適合表」「腐食回避の材質組合せ表」など台帳化

  • 安全・環境:溶接ヒューム・薬液(前処理/洗浄)対策と廃液管理。


10. 多様化は“設計と言語化”で勝つ

要求が増えるほど、初期の要件定義と試作が投資対効果を生みます。

  • まずは環境×性能×意匠を言語化 → 加工・治具・材料を選定 → 試作で補正値を掴む量産は再現性で回す
    この循環が、短納期・小ロットの時代に効く“強いアルミサッシ加工”の地力になります。

 

 

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高橋工業のよもやま話~Part19~

皆さんこんにちは!
高橋工業株式会社の更新担当の中西です

 

高橋工業のよもやま話

~特殊な設計~

 

アルミサッシは「切断→穴あけ→組立→表面処理」という定番工程が基本ですが、案件によっては曲げ・異形切削・複合接合・機能追加・高意匠仕上げなどの“ひと手間”が必要になります。この記事では、現場からの要望に応えるための特殊加工の代表例・選定基準・品質確保の勘所までを、実務者目線でまとめました。


1. 形状系の特殊加工

1-1. R曲げ/三次元曲げ

  • ロールベンダーによる長尺R曲げ:カーテンウォールの方立や円形FIXで採用。

    • ポイント:伸び反発で狙いRから戻るため、試作で補正値を掴む。切欠き部がある場合は割れ防止のスリット応力逃がしを検討。

  • 三次元(多軸)曲げ:螺旋・S字など立体的な意匠に。

    • ポイント:曲げ後のねじれが出やすい。治具での全長矯正を前提に。

1-2. 異形切断・切欠き

  • CNCルータ/マシニングによる切欠き:クローザー座、錠前座、排水経路、ガラススペーサー用など。

  • 長孔(スロット):躯体誤差吸収やアンカー調整のために多用。

    • ポイント:長孔端部は止まり穴+ブリッジ加工にして応力集中を分散。

1-3. 高精度端面加工

  • フェーシング/面取り(C0.2〜R0.5目安):搬送・施工時の傷や切創を予防。

  • 鋸切断の歩留まり最適化+二次端面加工:意匠面のツヤ・筋目を揃える。


2. 接合・補強の特殊加工

2-1. 溶接・圧入・かしめ

  • TIG溶接:小ロットの特注框や装飾パーツの一体化に。

    • ポイント:熱歪み管理(順序溶接・治具固定・水冷)と仕上げ研磨。

  • 摩擦攪拌接合(FSW):歪みが少なく気密性・強度が安定。大型框や長尺部材に有効。

  • セルフクリンチング/リベット:薄板同士の非溶接接合。

    • ポイント:後工程の表面処理ライン(アルマイト/塗装)耐性をチェック。

2-2. ハイブリッド接合

  • 構造用接着剤+機械的締結の併用:耐風圧や開閉耐久の“利き”を均す。

    • ポイント:接着は表面処理前後のぬれ性/プライマー適合が決定打。

2-3. コーナー部の特殊組立

  • 角継ぎ金具+油圧プレスの標準を、

    • 高荷重部では補強プレート追加・ボルトトルク管理で変形を抑制。


3. 機能追加の特殊加工

3-1. 断熱(サーマルブレイク)

  • ポリアミドストラット挿入樹脂容接で熱橋を遮断。

    • ポイント:破断荷重・引抜き強度の事前確認と水密経路の分離設計

3-2. 気密・水密強化

  • ドレインホール・圧力平衡室・パッキン溝の追加加工。

    • ポイント:水抜き高さ/位置で性能が激変。模型で滴下試験を。

3-3. 防火・防犯対応

  • 耐熱ガスケット溝、ラミガラス用深溝、CP錠座ぐりなど仕様合わせ。

    • ポイント:ガラス重量増に伴うヒンジ・戸車の支持力再計算は必須。


4. 表面・意匠の特殊加工

4-1. 表面処理の拡張

  • アルマイト(陽極酸化):耐食と意匠の両立。切削面のスジ目均一化が鍵。

  • 粉体塗装・フッ素樹脂塗装:沿岸部や高紫外域で有利。

  • 木目調転写/ラッピング:高級内装や旅館・商業施設で人気。

4-2. テクスチャ加工

  • ショット/サンドブラスト:反射を抑えた梨地で高級感。

  • ヘアライン・鏡面研磨:隣接ステンレスとの質感合わせに。


5. 現場対応の特殊加工(リフォーム・不整形開口)

  • 不整形開口合わせ:傾き・ねじれを現調採寸→治具化→仮組判定

  • アール壁対応方立:現場のRと芯ズレを吸収するスペーサー設計。

  • 異種金属接触腐食対策:SUS・亜鉛めっき鋼と接する部位に絶縁ワッシャシール


6. 工法選定の物差し(5尺度)

  1. 性能:耐風圧・気密水密・開閉耐久・断熱・耐食。

  2. 外観:目線距離での段差・映り込み・艶ムラ。

  3. 公差:組立累積誤差、ガラスクリアランス、金物位置精度。

  4. コスト:初期費+治具費+段取り時間(小ロットは治具の“賃取り”が肝)。

  5. リードタイム:外注表面処理や金型改修のクリティカルパスを先読み。


7. 設備・治具の勘所

  • CNCルータ/マシニング:吸着治具のリーク対策、切粉回収。

  • 専用治具:0点治具で段取り短縮。繰返し精度を治具基準に集約。

  • 計測:ノギス+ピンゲージ+ハイトゲージ。重要部は三次元測定で記録。

  • トレーサビリティ:部材ID→加工条件→測定結果をバーコード連携


8. 品質保証フロー(例)

  1. 試作:狙いR・歪み・排水テストの初期流動管理

  2. FMEA:割れ・白化・塗装不良・漏水・ガタのリスク洗い出し。

  3. 量産前承認(FAI):要素寸法・機能確認の合否基準を共有。

  4. 抜取検査:外観(500〜1000mm視認)、寸法、機能(開閉荷重・漏水)。

  5. 是正:不適合の再発防止(治具・条件・設計)まで落とし込む。


9. 現場で起きがちな失敗と対策

  • R曲げ後の反発で枠が入らない → 試作で補正R表を作る。

  • ドレイン位置ミスで逆流模型滴下+切断断面観察で経路を可視化。

  • 塗装後の接着不良 → 前処理と接着剤の適合表を必ず確認。

  • ラミガラス化で戸車破損総重量に合わせた金物へ事前選定。

  • 異種金属腐食 → 絶縁シート/シール材/ビス材質の組合せ規定化


10. 見積り・図面依頼のチェックリスト

  • 用途:外部/内部/海浜・工場地帯 | 要求性能:耐風圧/気水密/断熱

  • 形状:直線/R(R=   mm)/三次元曲げ | 開口の歪み有無

  • ガラス:単板/複層/合わせ(t=   mm) | 重量見込み

  • 金物:錠種/ヒンジ/戸車 | 追加座ぐり・切欠きの位置寸法

  • 表面:アルマイト/粉体/フッ素/木目転写 | 光沢・テクスチャ指定

  • 断熱:サーマルブレイク有/無 | 使用樹脂・性能目標

  • 排水:ドレイン位置・径・数量 | 気密材:種類/硬度

  • 公差:意匠面ギャップ(目安   mm) | 計測基準面の取り方

  • 数量:試作(   set)/量産(   set) | 納期:   /

  • 添付:意匠図/構造図/現調データ(DXF・STEP・採寸票)


11. 事例スケッチ(代表的な“特殊加工”の組み合わせ)

  • 円形FIX窓:R曲げ方立+Rカバー+ラミガラス用深溝+ドレイン最適化+ヘアライン仕上げ。

  • 沿岸部の大型引違い:粉体またはフッ素塗装+絶縁ワッシャ+SUSビス+戸車強化+長孔で芯ズレ吸収。

  • 高断熱スリム框:サーマルブレイク+接着・機械併用のハイブリッド接合+排水経路二重化。


12. 特殊加工は“段取りと基準化”で勝つ

特殊加工の成否は、設計(仕様の言語化)→治具(基準の固定)→試作(補正値の獲得)→量産(再現性)の一連で決まります。難しい要求ほど、初期の情報整理と試作に投資した方が、結果的にコスト・納期・外観の全部で得します。

 

 

 

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